AI活用事例

旅館グループが複数館の口コミをAIで横断分析した事例

旅館グループが複数館の口コミをAIで横断分析した事例

この記事の要点

3館体制の旅館グループがAIを使ってじゃらん・楽天・Googleの口コミを横断分析。館ごとの課題を可視化し、返信品質の統一とサービス改善に活かした具体的な運用フローを紹介する。

結論:月1回のAI横断分析で「館ごとのサービスギャップ」が見えた

3館体制の旅館グループがAIを使ってOTA口コミを横断分析したところ、月次レポート作成にかかる時間が従来の約8時間から1.5時間に短縮された。さらに「館Aは料理への不満が多く、館Bは大浴場の評価が突出して高い」という館ごとの傾向が可視化され、スタッフ研修の優先順位決定と返信文の品質統一に活用できるようになった。

本記事では、その旅館グループが実際に行ったデータ収集・AI分析・運用フローの全工程を紹介する。


なぜ複数館の口コミ管理が難しいのか

旅館グループが複数の施設を運営するとき、口コミ管理は単独館の何倍もの複雑さを抱える。

じゃらん・楽天・Googleの3媒体に3館分となると、返信すべき口コミが月200件を超えることも珍しくない。各館の支配人がそれぞれ対応していると、館によって返信スピードがばらつき、謝罪の表現や感謝の言葉のトーンも統一できない。グループとして同じ屋号を掲げながら、口コミ上の印象がばらばらになっていくのは珍しいことではない。

そして最大の問題は「全体を俯瞰できないこと」だ。館Aの料理への不満が増えていても、総合評点を眺めているだけでは気づきにくい。横断的に集計して初めて、グループとしての強みと弱みが浮かび上がる。


分析対象グループの概要と導入前の状況

今回紹介するのは、東北エリアに3館(温泉旅館2館、和モダンホテル1館)を持つグループ法人の事例だ。客室数は各館20〜45室、スタッフは正社員とパートを合わせて各館10〜20名という中規模構成。

導入前の口コミ管理状況は以下のようなものだった。

項目導入前の状況
返信担当各館フロントが個別対応
分析頻度四半期に1回、手動で集計
分析ツールExcelへの手作業転記
月次レポート作成時間約8時間
グループ横断の比較ほぼ行っていない

グループ本部の経営企画担当者(1名)が四半期ごとに各館の口コミをExcelに手作業で転記し、評点平均を出す作業が主な分析だった。テキスト内容の傾向分析は「時間がない」という理由でほぼ手つかずの状態だった。


AIを使った横断分析の全工程

Step 1:口コミデータの収集と整形

まず各媒体から口コミデータをエクスポートする。

楽天トラベルは管理画面の「クチコミ」メニューからCSVダウンロードが可能。投稿日・評点・コメント本文・返信有無が含まれる。じゃらんも同様にCSVエクスポートに対応している。

GoogleビジネスプロフィールはCSVエクスポート機能がないため、このグループでは「口コミコム」というツールを使ってGoogleの口コミも一元管理・エクスポートできる体制を整えた。月額数万円のコストだが、Googleの口コミは集客への影響が大きく、コスト対効果が見合うと判断した。

収集したCSVを1つのファイルにまとめる際、以下の列を統一する。

列名内容
館名A館・B館・C館
媒体楽天・じゃらん・Google
投稿日YYYY-MM-DD形式
総合評点数値
コメント本文テキスト

この整形作業に約30分かかる。Excelのマクロを組めばさらに短縮できるが、このグループは月1回の作業なので手動でこなしている。

Step 2:AIへの投入と分析指示

整形済みのCSVをChatGPT(GPT-4o)に貼り付け、以下のプロンプトで分析を指示する。

実際に使っているプロンプトの骨格はこうだ。

以下は旅館グループ3館の口コミデータです(CSV形式)。
次の分析を行い、結果を表形式でまとめてください。

1. 館別・媒体別の平均評点
2. 館別に「料理」「客室」「スタッフ対応」「清掃」「大浴場・温泉」「立地・アクセス」の6項目について、ポジティブ言及件数とネガティブ言及件数を集計
3. 各館で最も多く言及されているネガティブキーワード上位5つ
4. 前月比で評点が下がった館と、下落に関連するコメントの傾向

[CSVデータをここに貼り付け]

GPT-4oのコンテキスト上限(128Kトークン)の範囲内であれば、1ヶ月分・3館・3媒体合計200件前後の口コミを一度に処理できる。口コミ件数が多い月は媒体ごとに分割して投入し、最後に統合分析を依頼する。

この分析処理自体は15〜20分で完了する。

Step 3:結果の読み取りと改善アクションへの落とし込み

AIが出力した分析結果をもとに、経営企画担当者が月次レポートを作成する。

あるグループの実例では、分析結果から次のような発見があった。

  • A館:料理に関するネガティブ言及が3館中最多。「量が少ない」「品数が少なくなった」という表現が6ヶ月連続で増加傾向
  • B館:大浴場・温泉への評価が3媒体すべてで4.7以上と突出して高い。「源泉かけ流し」「空いている」という言及が多く、これが高評価の主因
  • C館:スタッフ対応のネガティブ言及が前月比で倍増。チェックイン時の待ち時間に関するコメントが集中

これらの発見が「肌感覚」ではなく数値と具体的なコメントで示されると、館長・経営陣への説明が格段にしやすくなる。A館については実際に食事量の見直しをシェフと相談し、翌月の口コミで「ボリュームが増えた」という言及が出始めた。

口コミ横断分析で見えてきた課題を、実際の改善アクションに結びつける方法についてはAIでクレーム一次対応の下書きを作る旅館の運用フローでも詳しく扱っている。


返信品質の統一:グループ共通テンプレートの整備

横断分析と並行して、このグループが解決しようとしたもう一つの課題が「返信品質のばらつき」だ。

館Aの返信は丁寧で長文、館Bは短くそっけない印象、館Cはほぼ定型文のコピペ——という状態では、同じグループ名を掲げる意味が薄れる。

AIを使ってグループ共通の返信テンプレートを整備した手順は以下のとおりだ。

1. 過去の「良い返信」を20件収集 各館の口コミ返信履歴から、スタッフが丁寧に書いた返信を館ごとに選び出す。

2. AIで共通トーンを抽出 「以下の返信文を読んで、このグループらしい文体・表現の特徴を箇条書きにしてください」とChatGPTに依頼。「感謝→共感→改善宣言→再訪促進」という構造が自然と浮かび上がった。

3. シチュエーション別テンプレートを作成

  • 高評価(5点)への返信
  • 低評価(1〜2点)への返信
  • 料理への不満に特化した返信
  • スタッフ名指しの感謝への返信

各パターン3バリエーションずつ作成し、GoogleドキュメントにまとめてグループSlackで共有した。

テンプレートは「そのまま使う」のではなく「ベースにして口コミの具体的な言葉を入れる」という使い方をルール化した。口コミに出てきた具体的なエピソード(夕食の○○が美味しかった、スタッフの△△さんが丁寧だったなど)を必ず1行入れることで、コピペ返信との差別化を図っている。

口コミ返信の運用体制を整える前提となる評判管理の全体像については旅館の口コミ返信運用も参照してほしい。


月次レポートの構成と経営会議への活用

このグループが毎月本部で使っている月次口コミレポートのフォーマットを紹介する。

表紙サマリー(1ページ)

  • 3館の平均評点推移グラフ(媒体別)
  • 今月のトップ3発見(箇条書き)
  • 要対応アクション(責任者・期限入り)

館別詳細(各1ページ)

  • 媒体別平均評点・件数
  • 6項目別のポジネガ件数表
  • 上位ネガティブキーワード
  • 特筆すべき口コミ抜粋(最大3件)

グループ横断比較(1ページ)

  • 3館の6項目スコアを並べたレーダーチャート
  • 「B館の大浴場をA館・C館に横展開できる施策はあるか」などの検討事項

このレポートを月次の経営会議で使い始めてから、「なんとなく悪い気がする」という感覚ベースの議論が減り、「C館のチェックイン待ち時間を3月までに10分以内にする」という具体的なKPIに落とし込みやすくなった。


ツール選定:自社に合う分析環境の作り方

口コミ横断分析のツール環境は、グループの規模と予算に応じて選択肢が異なる。

アプローチ費用感向いている規模主な特徴
ChatGPT/Claude手動投入月3,000〜6,000円(APIまたはProプラン)3〜5館柔軟性高い・整形作業が発生
口コミコム要問い合わせ(数万円/月〜)5館以上Google連携・自動集計・アラート機能
Repup要問い合わせ10館以上感情分析・多言語対応・BI連携
Revinate要問い合わせ(国際展開向け)大規模グループ英語圏OTA・CRM連携が強み

今回紹介したグループは「ChatGPT手動投入 + 口コミコム(Google取得用)」という組み合わせを選んだ。専用ツールだけに頼ると分析の粒度や切り口が固定されてしまうが、ChatGPTを使えば「今月の繁忙期前後で評価が変わったか」など任意の切り口で追加分析できる点を評価している。

AIを使った需要分析と組み合わせて稼働率向上を図った事例は客室30室の温泉旅館がAI需要予測で稼働率を12%上げた話で詳しく紹介している。


導入にあたって注意すべき3つの落とし穴

1. データ整形を軽視しない 媒体ごとにCSVの列構成が異なるため、最初の整形ルールを決めておかないと毎月作業がブレる。1回目に時間をかけて整形テンプレートを作ることが重要だ。

2. AIの分類ミスを盲信しない 「スタッフ対応」と「フロント手続き」は別の話なのに同一カテゴリに分類されることがある。AIの出力は必ず担当者が目視確認し、重要な発見はコメント原文に戻って確認する習慣をつける。

3. 分析で終わらせない 口コミを分析して「傾向がわかった」で止まっていると、次第に作業が形骸化する。毎月のレポートに必ず「アクション」欄と「責任者・期限」を設けることが、継続的な改善につながる。


プロンプトのポイントまとめ

口コミ横断分析をAIに依頼するときの構成要素をまとめる。

要素内容
データ形式の説明何館・何媒体・何件のデータか明示する
分析項目の指定評点集計・項目別分類・キーワード抽出など具体的に列挙する
出力形式の指定「表形式で」「箇条書きで」など出力形式を指定する
比較軸の指定「館別」「媒体別」「月別」など比較の軸を明確にする

プロンプト設計の基礎を旅館・ホテル業務向けに整理した記事は旅館向けプロンプトテンプレート:宿泊プラン説明文編も参考になる。


FAQ

Q. 複数館の口コミをAIで横断分析するのにどんなツールを使うの?

ChatGPT(GPT-4o)やClaudeにCSVでエクスポートした口コミをまとめて貼り付け、館別・項目別に集計・分類させる方法が手軽。専用ツールとしてはRepup、口コミコム、Revinate(英語圏)などがある。

Q. 口コミ分析をAIに任せると、どんな情報が得られる?

部屋・料理・スタッフ・清掃・設備など評価項目別のポジティブ・ネガティブ件数、館ごとの強み弱みの比較、繰り返し言及されているキーワード、時系列での評価推移などを短時間で整理できる。

Q. 口コミのCSVエクスポートはOTAからできる?

楽天トラベルとじゃらんは管理画面からCSV出力が可能。Googleビジネスプロフィールは直接エクスポートできないため、Googleマップの口コミを取得できるツールか、手動コピーが必要になる。

Q. 1回の分析にどれくらい時間がかかる?

口コミのCSV整形に30分、AIへの投入と集計に15分、結果のレポート整理に30分が目安。慣れれば月次レポート全体を2時間以内で完成させているグループもある。


まとめ

3館体制の旅館グループがAIを使って口コミを横断分析した取り組みをまとめると、次のとおりだ。

  • 月次レポート作成を8時間から1.5時間に短縮
  • 館ごとの強み弱みを項目別に数値で可視化
  • グループ共通の返信テンプレートを整備して品質統一
  • 分析結果を月次経営会議の意思決定に直結させる仕組みを構築

初期投資はほぼゼロ(ChatGPT Proプランのみ)でスタートできる。最初のハードルは口コミCSVの整形ルール作りだが、一度型を作ってしまえばあとは月1回の定型作業として回せる。

「口コミを感覚でなく数字で議論できるようになった」という変化は、グループ経営の意思決定の質を大きく変える。複数館を持つグループであれば、取り組みを始めるコストに見合う成果が得やすいテーマだ。

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よくある質問

複数館の口コミをAIで横断分析するのにどんなツールを使うの?

ChatGPT(GPT-4o)やClaudeにCSVでエクスポートした口コミをまとめて貼り付け、館別・項目別に集計・分類させる方法が手軽。専用ツールとしてはRepup、口コミコム、Revinate(英語圏)などがある。

口コミ分析をAIに任せると、どんな情報が得られる?

部屋・料理・スタッフ・清掃・設備など評価項目別のポジティブ・ネガティブ件数、館ごとの強み弱みの比較、繰り返し言及されているキーワード、時系列での評価推移などを短時間で整理できる。

口コミのCSVエクスポートはOTAからできる?

楽天トラベルとじゃらんは管理画面からCSV出力が可能。Googleビジネスプロフィールは直接エクスポートできないため、Googleマップの口コミをスクレイピングするツールか、手動コピーが必要になる。

1回の分析にどれくらい時間がかかる?

口コミのCSV整形に30分、AIへの投入と集計に15分、結果のレポート整理に30分が目安。慣れれば月次レポート全体を2時間以内で完成させているグループもある。